
中国古典文学大系53戯曲集下還魂記(岩城秀夫訳)59頁
第14幕 絵姿を画く から
杜麗娘は春の陽気とはうらはらに夢に見た柳夢梅を想うあまりすっかり食欲をなくしてしまいます。
侍女の春香に「十のうちの九つまで容貌を損なわん」と言われ、鏡のなかのおとろえている自分の姿に驚いて 16歳のきれいな姿を画に残そうと絵筆をとり白絹に向かいます。
杜麗娘
略
頬のあたりの愛らしさ 桜桃を描き 柳条(まゆ)を引かん
黒髪をくまどれば 霞か煙のただよえるごと
眉根の青さ なおいまだし
画中の人の秋波(ながしめ)の妙
あたかも春の山の淡きごと かんざしの螺鈿のみどり
略
描き添えし 江山の眺め 家垣のたたずまい
人は春の遊びにうかれ 青梅とりて戯る
太湖石のほとり 春のあけぼの 糸垂るる柳の前に
風なよやかに吹く
やわらけき緑の糸条(えだ)に 描き添えし
幾葉の芭蕉のみどり
最後に詩を一首書き入れて表装にだします。
近く覩て分明 儼然たるに似たり
遠く観て自在飛仙の若(ごと)し
他年 蟾宮の客に傍(そ)うを得ば
梅辺に在らずんば柳辺に在らん
2009年7月21日 刈間文俊教授(東京大学大学院 総合文化研究科)は 講演「映画『梅蘭芳』と中国の伝統演劇の世界」 のあとで牡丹亭に触れ 坂東玉三郎さんがこの「写真」の段を11月上海で演じるためたいへん苦心してお稽古なさっていること、真を写すこの段は美しさとはかなさを同時に表現しなくてはならず それが難しいとおっしゃっていること、またいつもよりお化粧が白いのは杜麗娘のはかなさを表してのことなどを教えてくださいました。
2009年7月といえば坂東玉三郎さんは歌舞伎座さよなら公演で泉鏡花の天守物語と海神別荘の舞台に出演中でしたが 時間をやりくりして蘇州の古語で還魂記をお稽古しているというお話を聞いて ただただ玉三郎さんのプロ意識の高さに敬服したのです。
玉三郎さんご自身が杜麗娘を演じる「写真」の初お披露目を上海蘭心大劇院でみることができてしあわせだったわね、Margaret。
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